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2025/01/02

「人」という視点から紐解く、持続可能な共生社会への挑戦

序論:多文化共生を考える

多文化共生とはなんであろうか。この言葉を耳にすることが多くなってきたとしても、その定義を明確に答えられる人は少ないのではないだろうか。当団体の団員に幾度か質問したことがあるが、誰一人として明確な定義は知らないようである。そんなわけで、今回はこの多文化共生について掘り下げていきたい。

読者の皆さんには、まず一度多文化共生について考えてもらいたい。どうだろう?意外に難しくはないだろうか。それもそのはずである。この多文化共生という言葉には、確固たる定義が定められていないのだ。厳密には、根幹となる概念は存在するものの、その解釈は多様に分散しているのである。

総務省によれば、多文化共生の意味というのは「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」とされている。しかしながら、この定義は行政的な視点からの理想形を示したものに留まっており、実際の社会における複雑な課題を十分に包含できていない。例えば、外国人労働者の待遇問題や、教育現場での言語の壁、地域コミュニティでの摩擦など、現実には様々な課題が存在している。このように多文化共生には、理想と現実の間にある善悪を包含した曖昧性が存在するのである。

第1章:多文化共生の本質を探る

では、真の多文化共生の定義とはなんだろうか。私が思うに、多文化共生の本質的な定義というのは、各個人が「人」である事を相互的に理解することにある。文化の違いや宗教の違いへの配慮は確かに重要である。しかし、これらは結果として付属するものであると考える。より本質的には、各々の人を内・外画一的に捉えず、一人一人が特殊な存在であることを認識することから始まる。そして、その個別性を受け入れながら、共に社会を作り上げていく過程こそが、真の多文化共生なのではないだろうか。

このような理解に立てば、多文化共生は単なる異文化間の調和という表層的な課題ではなく、人と人との深い相互理解と尊重を基盤とした、より豊かな社会の構築へとつながっていくのではなかろうか。

第2章:人間の認知特性と多文化共生への課題

では、そのための第一歩をここに明示したい。まずは、外・内を画一的に捉えてしまう課題に踏み込んでみようと思う。この説明をするために、大前提として人間は「省エネ思考」を持っている事を説明しようと思う。人間は一日に莫大な量の処理を反復している。エンジニアといわれる人なら、莫大な量を処理する際にどのような対応策を練るだろうか。答えは様々だが、システム化をするのは共通するかと思う。

人間の脳も同じく、脳処理を効率化させるためにシステム化を自動的に起動するのだ。これにより、社会的文脈上において、年齢・性別・人種・民族などの属性を、言語学的・文化的知識に基づいてカテゴライズする傾向がある(Susan A. Gelman & Meredith Meyer, 2011)。この文化的知識は、社会的関係や内集団・外集団の理解において共有された認識として、カテゴリー化のプロセスに深く組み込まれている。

当然ながら、個人が属する文化圏によって、共有される知識体系は異なる。この差異が、外集団の画一的な理解やステレオタイプの形成を促し、さらには自己の価値観とアイデンティティを維持するための内集団びいきを生じさせることが、「社会的アイデンティティ理論」によって説明されている(Tajfel & Turner, 1986)。以上のことから、外・内の画一化は人間の諸元的な認知傾向であることから避けることは非常に難しい。

第3章:多文化共生への理論的アプローチ

しかしながら、人間には生物界(思考能力)においてトップを誇っている事を忘れてはいけない。この課題に対して白羽の矢が立ったのが「接触仮説」という理論である。

「接触仮説」は、1954年にオールポートが提唱した社会心理学上の重要な理論であり、これは多文化共生にまつわる本質的な視座を我々に提供するものである。この理論の核心は、相手に対する知識の欠如が偏見形成に関わっているために、異なる集団間の成員が「接触」することによって両者の関係が改善されるという点にある。

オールポートは、この接触による偏見低減が最も効果的に機能する条件として、以下の3つを提示した:

  1. 「対等な地位」:接触する両者が社会的・制度的に対等な立場にあること。例えば、教育現場での異文化交流においては、互いを対等なパートナーとして認識することが不可欠となる。

  2. 「共通目標の追求」:異なる集団が共に達成すべき具体的な目標を持つこと。例えば、地域の環境保全活動や文化祭の開催など、共同で取り組む課題があることで、より効果的な接触が実現される。

  3. 「制度的・社会的な支援」:接触を促進し維持するための組織的なバックアップ。法的整備や行政支援、教育プログラムの実施など、制度的な枠組みが接触の効果を高める。

第4章:理論の発展と実践

「共通内集団アイデンティティ理論」(Gaertner et al., 1993)は、接触仮説を基盤として発展した理論の一つである。この理論は、内集団と外集団を包括する上位カテゴリーを意識させることで、再カテゴリー化を図り、仲間意識を生むことを目的としている。

Brave heartsでは、これらの理論を踏まえた実践として、料理教室やLEGOを用いた活動により自然発生的な会話を基に高次的なアイデンティティへと移行させ、新たな内集団アイデンティティを形成させることを目指している。例えば、運動会などで形成される「我々」意識は、この理論の実践例として捉えることができる。

結論:持続可能な多文化共生に向けて

私たちが近年謳う「多文化共生」は、制度的な側面が強調されすぎていたのかもしれない。実際に、国際交流経験のある日本人が37.0%にとどまっているという現状は、この課題を端的に示している(出入国在留管理庁, 2024年調査)。

これからの多文化共生社会を築いていくためには、制度的なアプローチだけでなく、人間の本質的な認知特性を理解し、それを踏まえた実践的な取り組みが必要となる。接触仮説や共通内集団アイデンティティ理論が示すように、意図的な接触機会の創出と、共通のアイデンティティ形成を促す活動を通じて、持続可能な多文化共生社会の実現が可能となるのではないだろうか。

今後は、これらの理論的知見と実践例を基に、より具体的な施策を展開していくことが求められている。そして何より、一人一人が「人」としての相互理解を深め、共に歩んでいく社会を築いていくことが、真の多文化共生への道筋となるのである。

引用文献

Gelman, S. A., & Meyer, M. (2011). Child categorization. In B. M. Lester & J. S. Gilman (Eds.), WIREs Cognitive Science, 2(1), 95-105.

カテゴリー化の認知プロセスに関する研究

Tajfel, H., & Turner, J. C. (1986). The social identity theory of intergroup behavior. In S. Worchel & W. G. Austin (Eds.), Psychology of intergroup relations (pp. 7-24). Chicago: Nelson-Hall.

社会的アイデンティティ理論に関する基礎的研究

Allport, G. W. (1954). The nature of prejudice. Cambridge, MA: Addison-Wesley.

接触仮説を提唱した先駆的研究

Gaertner, S. L., Dovidio, J. F., Anastasio, P. A., Bachman, B. A., & Rust, M. C. (1993). The common ingroup identity model: Recategorization and the re

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